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「藤原康博 記憶の稜線を描く」(2026年4月10日-5月10日 伊賀市 ミュージアム青山讃頌舎)

 藤原康博(1968‐ )は、松阪市出身の現代作家である。三重県立美術館での企画展「パラランドスケープ“風景”をめぐる想像力の現在」(2019年)や、同館付属の柳原記念館での個展「藤原康博 記憶の稜線を歩く」(2023年)をはじめ、国立国際美術館での「感覚の領域 今、『経験する』ということ」(2022年)への出品、あるいは国内外の美術館が藤原の作品を積極的に収蔵するなど、近年目覚ましい活躍を見せている。

 今回は、三重県伊賀市内にあるミュージアム青山讃頌舎という、水墨画家・穐月明(あきづきあきら)が長年収集した古美術や自身の作品を展示する目的で2015年に建てられた施設での開催。展示室はコの字型になっており、全体が一望できないこと、日本画や工芸品を展示するのに適した室内空間になっていることから、藤原がこれらの制限のなかでどのようなインスタレーションを展開するのか、少し気がかりであった。

 しかしながらそれらは杞憂に終わった。結局のところ、展示全体を一望できないことが作品それぞれのストーリー性を補強し、角を曲がった先には何があるのか我々鑑賞者の想像力を高める効果となっていた。いや、むしろ隠れていることこそがこの作家にとり重要で、具象的な絵画や立体作品を通じて「見えない/見ることのできない気配」を浮き上がらせているのだと、改めて認識させられた。


 藤原の作品によく用いられている青によるモノトーンは、冷静な精神状態を作り出す。気分が激しく高まっている人が青色の照明下に身を置くと副交感神経が刺激され、落ち着いて我に返る効果があるとされる。展示室最初の絵画がまさにその色で、描かれた掛金とシリンダー錠の固有色や明暗の変化が青色へと変換されている。これから錠が開かれ世界が広がろうとしているのか、閉ざされた世界を冷静に彷徨するという感覚であるかは見る者に委ねられている。スサノオの暴挙を怒り、天岩戸に隠れた天照大御神の挙動に近い感覚が、展示の導入として採用されているかのように自分には思えた。いずれにせよ、個々人の記憶をたどるには冷静になれる環境が必要であり、藤原が選択しているベッドやカーテンなどの室内空間に存在するモチーフや、木箱に囲まれた世界などは自己を顧みる装置としても機能している。

 そうした内なる眼で歩いていくと、内なる空間ではない外界を描いた風景画も、実は内なるものと通じていることに気づかされる。内と外の境界は非常にあいまいであって、身体の内側であっても外と通じるし、内側のすべてが自分自身ではないことも意識させてくれる。


 藤原の今回のインスタレーションは以前の展示に増して数多くの解釈や憶測が可能である。作品の一部に鏡が使われていたり、古今のマスコットが無機的に配されていたり、ベッド自体が国生み神話と通じているように見えたりと、個々のオブジェが緊密に反応しながら増殖し続ける。「記憶」の断片というものは、自己の脳内だけでなく、遺伝子レベルで刻まれた太古の情報や、外界にあるモノや神話の世界などとも通じ、結ばれながら形成されてい

るという壮大な体験をさせてもらった。しかも、ふと我に帰ることのできる遊びの要素を作品に伴いながら。              (サイトウミュージアム学藝員 田中善明)




 
 
 

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SAITOU MUSEUM
 

住所​:三重県松阪市魚町1807-1 電話:0598-21-1111

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