サイトウミュージアムのデータベース構築と作品メンテナンスの作業マニュアルについて 1

サイトウミュージアムは、2022年4月1日現在、学芸員1名と司書資格を持つ職員の2名で準備を行っています。精神科医である齋藤洋一が収集したこれまでのコレクションは数千点規模にのぼり、2020年4月より台帳への登録作業や開梱・整理作業のほか、ミュージアムとしての公開に向けた準備を行うため、データベースの構築をすすめてきました。

私たち以外にも限られた人数で美術資料等を管理されている美術館は数多くあります。そうした方々が効率的に作業を進めるための何かしらの参考になればとの思いと、改善できそうなところを多方面の方より指摘いただければという願いから、その作業手順を公開することにしました。

​ 先ず当ミュージアムでのデータベース構築の準備にあたり、次のような目的を想定しました。

  • 調査・研究や展覧会企画のアイデア創出のため

  • 保存管理や災害対策のため

  • 教育活動のため

  • 広報・普及活動のため(グッズ開発も含む)

以上のように、データベースの構築作業は美術館のあらゆる活動に関わるため、外部に丸投げできる性質のものではありません。特に2の災害対策については、その施設が何を所蔵しているのかを詳細な写真や記録でいつでも利用提供できるようにしておけば、災害や盗難に遭った際の外部への救援が求めやすく、作品(文化財)の的確な処置と延命に役立ちます。その他につきましても後述いたします。

さて、当ミュージアムでのデータベース化の主な一連の作業は、以下の通りです。作品の取り扱いが含まれていますので、学芸員としての知識と技能が必要なことは言うまでもありません。

  1. 作品から得られる情報を可能な限り引き出し、写真と文字で記録する。

  2. 保存のためにどの程度の処置が必要なのか、おおまかなランク付けと緊急度合いを調べる。

  3. その場で可能なクリーニングや金具取り替えなどのメンテナンスをする。

  4. 得られた情報等を元に、作品を観察しながら簡易版の解説を書く。

  5. 当ミュージアムにとって、その作品が重要かどうかを判断する。

  6. 作品を整理する。

敢えて特徴的だと思われるのは作品の簡単なメンテナンスや作品解説を含めた作業でしょうか。日常業務が忙しく、こうした作業に時間が取れないと諦める方もいらっしゃるかもしれませんが、むしろこの一連の作業でコレクションの特色をつかんでおけば、業務の全体が見渡せるだけでなく、作品の点検によって事故を未然に防ぐことや、いつでもどこからでもデータが参照できるようにしておくことで、収集活動や展示計画など、将来的には時間や経費が大幅に軽減されると考えています。

近年はデジタルカメラの精度が上がり、データを保管するハードディスクも低価格化、さらにはクラウドの利用といった、データ蓄積と利用のための経費が格段に抑えられ、予算に余裕がない場合でもその恩恵が行き届くところまで環境が整いました。今回は、50号大以下程度の絵画作品を中心にその方法をご覧いただきたいと思います。

1.用意するもの

参考にしていただくため、具体的な製品名を含めましたが、中にはより良い製品があると思います。

  • テーブル:当ミュージアムでは折り畳み式(W2400 ✕D1200 ✕ H800mm)を使用。2台あれば効率が格段に高くなります。額縁等を直接テーブルの上に置くと額縁を傷めてしまうので、厚手のフェルトなどを敷きたいところですが、ホコリやカビをまき散らした際、フェルトに吸着しますので、フェルトの上にビニルシートなどを敷くとよいと思います。当ミュージアムは、経費削減のため板段ボールを敷いています(fig.1)。

  • 工具:ドライバー(プラスとマイナス大中小)など一般的な工具のほか、歯科用プライヤー(fig.2)やニッパーがあると、錆びついた釘や木材に陥没している釘を抜くのに便利。ピンセットや錐(きり)もよく使います。

  • ハンディ掃除機:HEPAフィルタ付きの掃除機が健康被害も軽減されて理想ですが高価。

  • 刷毛、ブラシ:日本画等用刷毛(名村製10号絵刷毛・穂幅30㎜)と油絵用の豚毛刷毛(HOLBEIN ホルベイン 油彩筆 KC フラット 平筆 16号)がとりあえずあればだいたいホコリやごみは除去できます。

  • ティッシュとアルカリイオン水、消毒用エタノール(80%):ガラスはアクリルに比べて多孔質で、収集した作品のガラス内側にカビが発生していることがよくあります。カビは消毒用エタノールで殺菌し、皮脂などのよごれはアルカリイオン水をティッシュに含ませて拭き取ります。

  • ホワイト・スピリット(ミネラル・スピリット):ガラスや額に付着したシールやテープ跡の除去に使います。作品本体への使用は専門家でない場合は行えません。入手できなければ、ホームセンターでシールはがしのスプレー缶などが売っていますので、ティッシュに吹き付けてからガラスなどを拭いてください。大量に吸入すると人体に害がありますので、換気できるところで使用してください。

  • 手袋:ノンパウダーのニトリル手袋。長時間使う場合はNIPROノンパウダープラスチック手袋Fも有効。ただし、いずれも柔らかいプラスチックの表面などはわずかに傷つくので注意。

  • ネジ(作品固定や金具の取付。よく使用する順に):フクイNo.6701-1(鉄木ネジ皿頭ニッケル2.1×10、5000本入、額縁裏蓋のトンボの取付や、作品の固定、T字金具取付などにも使用。トンボはNo.6301のチョボ付きステンレスタイプ、T型金具はNo.6290ステンレスで46.5㎜)、No.6712(鉄木ネジ丸頭ニッケル2.1×13、1440本入、吊り金具大用)、フクイNo.6738(鉄木ネジ丸頭ニッケル2.7×16、1440本入り、吊り金具小用)。ステンレスよりもニッケルの方が​安価で強度があること、美術館の環境では錆びる心配は少ないことなどが念頭にあります。

  • 額縁吊り金具:当ミュージアムは30号以下の小品が多いため、フクイNo.6208(P型吊りカン大)とタキヤFHT-S70を用意。地震による反動などを考慮すれば、最低でも耐荷重の2倍以上の金具をつけるのが理想。

  • 額縁ひも:フクイNo.6511(丸ひも直径4㎜×300m)、フクイNo.6501(丸ひも直径3㎜×300m)の2種を用意。基本的にワイヤー吊りではあるものの、当ミュージアム以外での展示の可能性も考慮し、額縁の重量で4㎜か3㎜かを使い分けています。

  • ルーペ:10倍から15倍程度拡大できれば。版画の種類の確認だけでなく、色校正の際にも重宝します。

  • イーゼル:額縁をつけたまま置くこともありますので、安定性のある大型のアトリエ制作用イーゼルを使用。

  • スマートフォンかコンパクトデジタルカメラ:処置前後の写真が必要な場合や、何か発見があった場合の記録として。

デジタルカメラ等撮影機器:平面作品のみを想定しています。立体作品の撮影は熟練の域に達するのに時間がかかりますのでプロに任せたほうが、結局は費用対効果が良くなります。

  • Nikon D850(カメラ本体)※約4500万画素(約8250×5500ピクセル)で撮影できますので、大雑把にはB1ポスター程度の高画質印刷出力には耐えられます。近年はNIKONから同程度の画素数であるミラーレス機がより軽量安価で登場しましたが、従来のレンズを使用する場合はマウントアダプターが必要です。

  • AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED(短焦点マイクロレンズ)※奥行きのあるスペースで撮影できればレンズはほぼこれ1本で賄えます。単焦点のほうがレンズのひずみが少ない。 

  • AF Zoom-Nikkor 24-85mm f/2.8-4D IF(ズームレンズ)※大型作品やどうしても後ろに下がって撮影するスペースがない場合にズームレンズを使用します。

  • Nikon MC-30A(レリーズ)※直接シャッターを押すと、その振動で画像にブレが生じるのと、作品への撮影者の映りこみを防ぐためにレリーズを使います。ない場合はタイマー撮影をします。

  • SEKONIC Model L-478D(照度計)※照度計はあまり高度な機能が加わると、数字の表示スピードが遅くなる場合があります。一眼レフは露出を自動で計算してくれるので、展示作業で使用する照度計で十分です。明るさにムラがなく光が均等に当たっているかを調べるだけです。

  • COMET LED Spot-50(ライト)4灯 ※安定した色温度の光を求める場合はストロボでの撮影が理想ですが、ライティングの調整が難しいので、光の加減を調整しやすい定常光タイプのほうが簡単だと思います。15号サイズぐらいまでの作品なら2灯(左右各1灯ずつ)で撮影できます。

  • ライトスタンド(2本)※1本のスタンドに2灯取り付けます。上の1灯はスタンド上部のネジに取り付け、下の1灯はクランプで取り付けます。200㎝ぐらいまで伸び、安定感のあるスタンドが良い。

  • SMALLRIG スーパークランプ ロッドクランプ 1/4インチネジ付きボールヘッドマウント 自由雲台付き蟹バサミクランプキット モニター/LEDライト対応-1124(下のスポットライト1灯を取り付ける金具)

  • 延長コード(2本)※撮影時にライトスタンドを頻繁に動かして角度を調整しますので、ライトは1灯あたり50Wですが、スタンド一本に一つの延長コードを使ったほうが効率が良くなります。

  • TOKISTAR ライトスタンド 大型ブームスタンド TS-108-ST & ライトスタンド トレーシングペーパーポール TS-908-AC ※作品のテカリを軽減したい時や、柔らかい調子にしたい時にはトレーシングペーパー等を使用します。当ミュージアムにはこのスタンドセットがありません。スポットライトの羽に軽くて白い化学繊維の布をひっかけて使っています(fig.3)。

  • X-rite PANTONE Colorchecker CLASSIC MINI(カラーチャート)※長さ11cm、幅7㎝以下の大きさですので、小型作品にも使用できますし、紙でできているので、万一作品表面に落下した場合でも被害が少なくて済みます。

fig.1 段ボールを敷いた作業テーブル

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fig.2 歯科用プライヤー

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fig.3 作品の反射を和らげる布装着例

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