学藝員の田中です。とうとうサイトウミュージアムにて日本画の展覧会が始まりました。当たり前ですが、美術館学藝員はそれぞれの専門があって、美術史のすべてを知り尽くしているわけではありません。今回の展覧会は、僕にとってはアウェイの位置にある分野ですが、コレクションの約3分の1は日本画なので紹介しないわけにはいきません。ということで、掛軸を開けては撮影して、寸法などのデータを取り、簡単な作品説明を加えるという作業をこつこつとやってまいりましたが、掛軸の作品って良いですね。開けるときに少しずつ絵柄が現れるのでワクワクします。
そういえば、最近、美術館やお茶室以外で掛軸を見る機会が減りました。日本の住宅に床の間がなくなったのが原因だとも言われていますが、掛軸は室内の雰囲気を変えてくれる重要な役割を果たしていたと思います。四季折々の花鳥画やおめでたい絵も良いですが、小室翠雲などが描く南画の多くは、実在しない理想郷が描かれていて、想像力が養われます。バーチャルな風景が家の中で掛けられているのですね。確かに床の間があれば現実空間とバーチャルな空間とが一層区分けされるのでしょうが、掛軸は絵だけが巻かれているわけではなく、絵の周りに柄などのついた表装があるわけで、それがしっかりと現実世界と区分けしてくれているので、床の間でなくてもよいのではないかと思えます。先日、中国に何度も調査に訪れたことのある美術史家の方にお聞きすると、中国では壁にバンバン掛軸が飾ってあるとのことでした。日本もそうなって需要が高まれば、絹地に描く美しい日本画を描く人が復活してくれるかもしれません。
一方、僕の専門である近代の洋画もだいたい額縁に入っています。額縁も掛け軸の表装と同じように周りの現実世界と絵画の世界とを区分けする役割を担っています。もちろん、絵画を演出する役割もあります。こういう区分けをしてくれるものが、現代の平面作品では「無い」方がむしろ大勢を占めるようになってきました。現実とバーチャルの境目があいまいになってきているっていうのは、いったいどういうことなんでしょうか。
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